アイシングや湿布はケガの治りを遅くする?ー炎症は身体にとって必要な反応ー

その他

こんにちは。安曇野にしやま整骨院の西山です。

一般的にはケガや痛みが生じた時は、応急処置としてアイシングや湿布を貼る事が常識と思われていますが、実は治癒を遅らせる可能性がある事がわかってきました。

本記事では、応急処置についての判断の一助になる事を目指し、記載しています。

要旨

・炎症による発熱は、損傷した組織を修復するための正常な免疫反応である。
・安易なアイシングや湿布は、免疫反応を鈍らせ、治癒を遅延させる可能性が
         ある
・一方、関節炎等による長引く炎症は、酵素による関節破壊が進行する可能性があるため、アイシングが有効な場合がある。
・また、強い炎症による耐え難い痛みの継続は、中枢神経の感作(痛みの過敏化)を引き起こすため、疼痛緩和を目的としたアイシングや湿布が必要な場合がある。

最近、神戸大学の川島らの研究グループが、「アイシングは肉離れ等の筋損傷の再生を遅らせる」という結果を報告しました1)

これまで、捻挫や肉離れ等の急性のケガに対し、RICE処置、すなわちRest(安静)、Ice(アイシング)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の処置を実施する事が治りを早めると信じられ、スポーツや臨床現場では実施されてきました。

しかしながら、川島らの論文によると、肉離れをおこさせた実験動物にアイシングを設置したところ、アイシングを実施しなかった群と比較し、炎症性細胞の集積が遅れ、再生した筋繊維の断面面積が優位に減少したと報告しています。

この結果は、炎症反応は身体を修復するための必要な反応であり、炎症を抑えようとする行為(アイシングや湿布等)は本来の自然治癒力を弱めるという可能性を示唆しているといえるでしょう。

一般の方にとって炎症とは、患部が赤く腫脹し、熱を持ち、痛みが増強されるという現象から、ネガティブなイメージを持っているかもしれません。

しかし、これは損傷した組織を治すために、細胞が必死で頑張っている反応なのです。

よって、炎症反応では身体で何がおこっているかという正しい知識をつける事が、痛みに対する処置の原理原則を身に着けるために重要です。

まずは、患部における炎症と治るまでのプロセスについて、ご理解いただけるよう簡単にご説明します。

組織の炎症反応と治るまでの過程

捻挫や打撲等で組織が損傷すると、損傷した患部、血管から炎症に関わる細胞が浸潤します。

そして、細胞や患部より、炎症性サイトカイン(ホルモンのようなもの)や炎症メディエーター(発痛物質や血管を拡張させる生理活性物質)を放出し、さらに細胞を患部に集め、痛みを増強し、血管を拡張させ、結果、発赤、腫脹、熱感、痛みが生じます2)図1)

図1 組織損傷における炎症反応
 https://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textlife/immunology.htmの図を転載

次に、このような炎症反応がおこる意味についてご説明します。

①炎症細胞の集積 → 壊れた組織を掃除し、キレイにしてくれる

②腫脹や熱感 → 患部に組織液を浸潤させ、 壊れた組織を洗い流し、除去しやすくすると同時に、熱を上げることで炎症細胞が働きやすくなる。

③痛み → これ以上組織が損傷しないよう、患部を安静にさせる。

以上のように、ネガティブに感じる炎症反応とは、全てケガが治るために必要な反応である事がわかります。

ご理解頂きやすいよう、建物を例にします。

災害等がおき、家が倒壊した場合、そのままでは新しい家を建てる事はできません。

新しい家を建てるためには、一度倒壊した建物を解体し、撤去、整地する作業が必要ですね。

炎症反応とは、これと同じ事をしてくれているのです図2)

2 組織損傷から修復まで(建物の再構築を比喩として表現)

そして、炎症反応による患部の整地がスムーズに終わる事で、組織は修復、治癒(建物の再構築)へ向かう事ができます。

アイシング等の冷やす行為は、血管を収縮させ、患部の熱を下げる事で、炎症細胞の働きを鈍らせる事につながります。

湿布や痛み止めは、先述した炎症メディエーターの産生を阻害し、患部の腫脹が減少し、損傷した組織の除去が滞らせる可能性があります。
さらに、痛みが感じにくくなるため患部を安静にできず、さらなる組織損傷をおこし、結果として炎症を長引かせてしまう可能性があります。

よって、ケガに対する処置においては、適切な固定や安静を図り、炎症反応がスムーズに働けるようにする事が自然治癒力を最大限に高めます。

アイシングや湿布をした方が良い場合とは

アイシングや湿布は極力実施しない方がいいというのが私の考えですが、例外の場合があります。それは、安静だけでは耐え難い痛みの場合や長引く関節炎の症状です。

安静だけでは耐え難い痛みの場合

痛みは患部における痛みの神経(末梢の感覚神経)が刺激され、脊髄で中継され、脳に伝えられる事でおこります。

しかし、痛みがあまりにも強く、脊髄、脳で常に痛みを感じていると、末梢神経では反射的にさらに痛みを増強させる物質が放出されます(軸索反射)。

同時に、脊髄から脳への痛みの中継が強化され(ワインドアップ効果)、脳での痛みがさらに増強するという、悪循環が生じる場合があります。

このような場合は、必要に応じアイシングや湿布が必要かもしれません。

長引く関節炎の症状

膝の軟骨が損傷すると、先述と同様に炎症反応がおこります。炎症時に産生されるMMP3という酵素は、壊れた軟骨を分解、除去してくれます3)

しかし、慢性的に負荷がかかり、炎症が長引いてしまうと、患部ではMMP3が産生され続け、軟骨をどんどん破壊してしまう事が懸念されます。

このような場合、患部の固定と合わせ、アイシング等で熱を下げ、酵素の活性を下げる(酵素は37℃の発熱時に最もよく働きます)事が必要な場合があります。

まとめ

・炎症反応は身体を治すために必要な反応。
・炎症反応を抑え込もうとするのではなく、適切な固定や安静により、炎症から修復過程へスムーズに移行させることが重要。
・強い痛みや関節炎で湿布やアイシングを行う場合、リスクとベネフィットを知り、総合的に天秤にかけ判断する。

以上

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

参考図書・文献

1)Masato Kawashima, et al, ; Icing after eccentric contraction-induced muscle damage perturbs the
disappearance of necrotic muscle fibers and phenotypic dynamics of macrophages in mice ; journal of applied physiology ; 2021
2)山本 雅, 仙波 憲太郎, 山梨 裕司;イラストで徹底理解する シグナル伝達キーワード事典 ; 羊土社 ;2012.
3)酒匂 潤 ;Expression and localization of MMP-3 and TIMP-2 in the temporomandibular joint of osteoarthritic mice;歯科医学;2000.

*本記事は一般の方にもご理解頂ける事を趣旨としているため、医学的には適切でない表現が含まれている場合がありますが、予めご了承ください。

西山 伸夫
安曇野にしやま整骨院 院長 
柔道整復師 修士(健康科学)

安曇野市 穂高の整骨院
腰痛 肩こり 不調の原因を特定し
骨盤、姿勢矯正で根本改善

ホームページ↓
http://azumino-nishiyama.com

タイトルとURLをコピーしました