骨折を効果的に治癒させるためには

こんにちは。安曇野にしやま整骨院の西山です。

今回の記事は骨折を早く治癒させるために注意しなければならない事をお伝えします。

一般の方は、骨折等と診断された場合、必要以上に固定や安静を継続してしまう傾向があります。しかし場合によっては、治癒、社会復帰を遅らせる事になります。

骨折は、炎症が終息後、必要最小限の固定にて患部へ適度に刺激を加えた方が、早期に治癒し、痛みも改善します。

本記事では、骨折を長期間固定する事の問題点と、早期に治癒させるための当院の考え方を述べます。

骨折を長期間固定してはいけない3つの理由
1.骨とは関係のない、関節の拘縮、筋肉の弱化、線維化を招く
2.骨を作る細胞へ、治すための刺激が伝わらなくなる
3.痛みの神経が過敏になり、慢性的な痛みを引き起こす原因となる 

骨とは関係のない、関節の拘縮や筋肉の弱化、線維化を招く

骨折の治療においてはまず、折れてズレてしまった骨を整復し、その状態を保持するためにギプス等による固定を行います。整復位の保持、痛みの軽減、出血を抑えるため、この期間の固定はとても重要です。しかしながら、この固定期間が長くなりすぎると、骨以外の組織(関節や筋肉等)はだんだんと悪い方へ変化していきます。

ラットを用いた実験では、ギプスによる固定が2週間が過ぎると筋委縮、筋細胞死等が発生するとともに、関節の可動域制限の出現が認められています1)。また、関節を固定した期間が長い程、関節内での癒着、病変は進行し、回復が困難な状態となる事が報告されています2)

臨床においても、長期の固定は骨折部がズレるリスクは減らせるかもしれませんが、その他の組織である関節、筋はどんどん機能を失い、「骨はまっすぐくっついたけども動かせない関節」を作ってしまうリスクを高めます。

よって、骨折部の強固な固定期間は、骨折の状態にもよりますが、2週間、長くとも3週間以内とし、患部と関係ない関節は早期に動かせるようリハビリをするとともに、固定範囲を最小限にすることが重要であると考えられます。

骨を作る細胞へ、治すための刺激が伝わらなくなる

骨折治癒過程は、骨折による炎症期(骨折より2~5日)、治癒するための細胞が増殖し、骨折部を埋めるるように細胞増殖期(3~7日)、軟骨性の仮骨が形成される時期(7日~14日)、軟骨が骨に置換 (内軟骨性骨化) されていく時期(14日~)、作りすぎた余分な骨を削る(リモデリング期)を経て、骨は治癒します3)4)

重要なのが、骨折を埋めるために細胞が増殖し、軟骨性の仮骨を形成する細胞増殖期~成熟期の期間です。

なぜなら、細胞は外部刺激、環境により性質や機能が変わるからです。

私自身も研究課題として取り組んでいたのですが、軟骨、骨を作る細胞は、運動や軸圧等の刺激(メカニカルストレス)がかかる事で、本来の強度を持った骨構造へ再生するように働きます5)6)

よって、骨折部が元の強度のある骨に再生するためには、ある程度の運動刺激が必要だという事です。

しかしながら、細胞が運動刺激を必要としている時期には、レントゲンではまだ骨がついているように写りません。レントゲンに骨がついたように映るのは、軟骨細胞が骨芽細胞へ分化し、患部にカルシウム沈着がようやく起こった時(治癒の終盤)です。

以上の理由から、レントゲンに骨が写っていない=骨がついていないと判断し、リハビリを開始しないと骨折治癒が遅れ、関節拘縮や筋委縮をおこすリスクを増加させる可能性があります。

一方、この時期に、骨折部がズレないよう、適度な軸圧がかかるような固定管理や運動療法を実施する事で、骨折治癒を促進する事ができます。

また、患部をなかなか動かせない重度の骨折であっても、低出力による超音波治療が、骨折治癒を促進する事も報告されています7)

痛みの神経が過敏になり、慢性的な痛みを引き起こす原因となる

長期間の固定は、痛みの神経を過敏状態にしてしまう事がわかっています。ラットを用いた研究では、膝関節を2週間以上固定する事により、疼痛閾値が低下(痛みに過敏)したと報告されています8)

臨床においても、骨折等の外傷に対し必要以上に広範囲の固定や、長期間の固定を実施する事で、患部が浮腫み、痛みに過敏となり、その後の可動域訓練が難航し、

患部を動かせない → 患部の血流が低下し、浮腫む → さらに痛みに過敏になる

という悪循環に入ってしまいます。そして、痛みが長期化すると、交感神経が痛みの知覚神経の領域に枝を伸ばし、ストレスや天気等、自律神経のアンバランスでも痛みを引き起こすようになり、さらに患部への血流が悪くなってしまいます。

このような状態は複合性局所疼痛症候群(CRPS)と呼ばれ、社会生活への復帰が遅れてしまう事になります。

以上を踏まえ、当院では骨折に対し、下記の方針で施術を行っております。

  1. 骨折直後は、徒手整復を実施し、骨折部の断端を近づけ、強固な固定を実施する。これにより、骨折部からの出血を最小限に止め、その後の仮骨による架橋がスムーズとなり、変形による機能障害の残存を最小限にする。
  2. 炎症期が終わり次第、骨折部とは関係のない関節の運動(例:手首の骨折では指、肩の骨折では肘等)を実施するとともに、患部への超音波治療を実施。
  3. 軟骨性の仮骨で患部が安定し始める時期から、骨がズレない程度の安全な方向への運動を開始し、固定材を軽い物に変更および固定範囲を徐々に小さくする。
  4. 性の仮骨ができる(レントゲンで骨の癒合が確認できる)頃までに、関節可動域を正常な状態に近づけ、早期社会復帰を目指す

大切なのは、骨折治癒における組織学、細胞生物学的な治癒機転を理解し、身体の治癒能力を最大限に活かす管理をする事だと思います。また、これを実現するためには、患部を入念に観察し、臨床症状(熱感や腫れ具合、圧痛、エコー画像等)から治癒の状況を総合的に判断していく必要があるため、細かなケアは必須です。

当院では、骨折に対しても十分な時間を確保し、よりベストな施術が行えるよう努めて参ります。

以上最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献
1)西川 彰1,2,西尾 俊亮2,西川 晃子2,今北 英高;骨折を伴う外固定が関節拘縮と廃用性筋萎縮に及ぼす影響 ;体力科学 ;2012;61;95-101.
2)渡邊 昌規, 細 正博, 武村 啓住, 由久保弘明, 松崎 太郎 小島 聖;関節組織における関節構成体の病理組織学変化;理学療法科学; 2007;22(1), 67-75.
3)神宮司 誠也;骨折治癒のしくみー骨の再生能力ー ; 福岡医誌 ; 2002;116-120.
4)高木 克公;骨折治療法別の骨折治癒過程;骨折治療学 .
5)桜井 正裕, 並木 脩, 西山 嘉信, 藤巻 悦夫, 山本 茂樹;骨折治癒過程における軸圧負荷の影響について ; 骨折 ; 1994;24-29.
6)西山 伸夫; メカニカルストレスが骨折治癒に与える影響 ―動物実験モデルを用いた生化学的、分子生物学的解析― ; 修士論文 ; 2014.
7)神宮司 誠也;低出力超音波パルス ; THE BONE ; 2004;18-6; 55-59.
8)矢島 弘毅, 太田 英之;CRPSの最近の知見; 関節外科 ; 2018;37-6;73-76.

*本記事は一般の方にもご理解頂ける事を趣旨としているため、医学的には適切でない表現が含まれている場合がありますが、予めご了承ください。

西山 伸夫
安曇野にしやま整骨院 院長 
柔道整復師 修士(健康科学)

安曇野市 穂高の整骨院
腰痛 肩こり 不調の原因を特定し
骨盤、姿勢矯正で根本改善

ホームページ↓
http://azumino-nishiyama.com

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